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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)73号 判決 1969年7月15日

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴会社の発行する株式の総数は八、〇〇〇株とする旨の控訴会社の昭和四〇年六日一八日の臨時株主総会の決議が存在しないことを確認する。

控訴会社の昭和四〇年六月一九日の取締役会の決議にもとづく控訴会社の株式一、〇〇〇株の新株発行は無効とする。

被控訴人のその余の請求を却下する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて二分し、その一を控訴会社の負担とし、その他を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は

控訴代理人において

一  被控訴人の「控訴会社の昭和四〇年五月二八日定時株主総会における役員選任の決議取消を求める」請求は、結局右決議にもとづく役員改選の無効を主張するものであるところ、その後、任期満了による役員改選のための株主総会において、新たに適法な役員改選が行なわれたものであり、かつ被控訴人もこの総会に出席して決議に参加しているものであるから、前記昭和四〇年五月二八日定時株主総会における役員改選決議の取消を求めることは、訴の利益がないといわなければならない。

二  前記昭和四〇年五月二八日定時株主総会の招集通知は、会日前に通知したものではあるが、被控訴人をも含めた全株主が右総会開催をあらかじめ諒承していたのであり、会日においても出席株主(被控訴人を含む)から右招集通知の瑕疵につき異議の申出がなかつたものであるから、右瑕疵のゆえに決議取消をなすことは許されない。

三  控訴会社の昭和四〇年六月一九日取締役会決議にもとづき、新株一、〇〇〇株の発行が現実に行なわれ、右増資により控訴会社は営業所を新築移転し、業態は発展の一路をたどり、年間売上も飛躍的に伸び、銀行からの融資が金一、五〇〇万円を超ゆる信用をえるまでに至つている。従つて、今更右新株発行を無効にすることは、控訴会社の内外関係を混乱させるだけであり、従来の株主総会開催手続が簡易手続のみによつていたことにかんがみ、増資するの止むなき事情を熟知し、しかもその後の昭和四一、四二、四三年度の三回にわたる定時株主総会に出席して右増資を前提とする各種書類から成る決算報告を承認している被控訴人が本訴をもつて新株発行の無効を主張することは、民法第一条により信義則に反する権利行使である。

と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠(省略)

理由

当裁判所は、被控訴人の「控訴会社の発行する株式総数を八、〇〇〇株とする旨の昭和四〇年六月一八日臨時株主総会決議の不存在確認および昭和四〇年六月一九日取締役会の決議にもとづく株式一、〇〇〇株の新株発行の無効確認の請求は正当として認容すべく、その余の請求は不適法として却下すべきものであると判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほか、原判決説示の理由と同様であるからこれを引用する。

一  原判決七枚目表八行目から同一〇枚目表八行目までを次のとおりあらためる。

控訴会社の昭和四〇年五月二八日定時株主総会における役員選任決議の取消を求める被控訴人の請求について、控訴人は訴の利益を欠ぐものでもあると主張するので判断する。昭和四〇年五月二八日開催の控訴会社定時株主総会において、訴外高松進、同広瀬次輔、同〓口記義、同山口太吉、同秋吉〆蔵、同師岡高朝、同梅本敏夫を取締役に、訴外竹井一義、同山本人士を監査役に選任する決議がなされたことは当事者間に争いがない。ところが、成立に争いない乙第一号証、第二号証の一、二および原審における控訴会社代表者広瀬次輔の本人尋問の結果(第二回)によると、控訴会社の定款第二〇条には、控訴会社役員の任期は取締役が二ケ年、監査役が一ケ年と規定されているから、昭和四〇年五月二八日の定時株主総会における決議により選任された役員は、取締役につき昭和四二年五月二八日、監査役につき昭和四一年五月二八日をもつて任期満了により終任すること、昭和四二年五月二一日開催の定時株主総会において新たに役員選任決議がなされ、前記と同一の高松進、広瀬次輔、〓口記義、山口太吉、秋吉〆蔵、師岡高朝、梅本敏夫が取締役に、前々期と同一の竹井一義、山本人士が監査役に選任され、同年六月五日その旨登記されていることが認められる。本件役員選任決議取消の訴のごとき形成の訴は、法律が必要に応じ要件を定めて個別的に認めたものであるから、その出訴要件が具備しているかぎり一応訴の利益が認められるが、形成権発生後の事情の変動により、判決しても何ら具体的実益のない場合には訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とするところ、控訴人が取消を求める決議にもとづき選任された役員は全て任期満了により退任しており、新たな別個の選任決議によつて役員が就任したものであつて、控訴人が取消を求める選任決議にもとづく役員は現存していないのであるから、本件決議取消の訴は利益を欠くに至つたと認めるべきである。控訴人が本件決議により選任された役員に対し就任期間中の責任を追求する(商法第二六六条、第二六六条の二、第二六七条)ためには、本件決議取消の判決を得ることを要するものではなく、昭和四二年五月二一日に選任された役員が、本件決議にもとづく役員と同一であるからといえ、本件決議の瑕疵を免れようとする意図で改めて選任手続をやりなおしたものではなく任期満了にもとづく改選であつたのであるから、右判定に影響はない。以上のとおり、昭和四〇年五月二八日開催の定時株主総会における役員選任決議の取消を求める被控訴人の請求は訴の利益がなく不適法として却下を免れない。

二  原判決認定のとおり、控訴会社が昭和四〇年六月一九日の取締役会の決議にもとづき新株一、〇〇〇株を発行したのは、控訴会社が発行しうる株式総数を超過した株式発行であるから、商法ならびに定款に反することが明らかで無効と断ぜざるをえない。新株発行を無効とすることは、新株の処置につき困難な問題を生じ確かに取引の安全を害すること多大であるというべきであろうが新株発行無効の訴が認められている以上、右のごとき結果を生ずるのはやむを得ないことであり、本件一切の証拠によるも、被控訴人の本件新株発行無効の訴の提起を信義則違反ないし権利濫用と認めるには不充分である。

よつて、原判決を一部変更し、民事訴訟法第三八四条、第九六条、第九二条本文に従い主文のとおり判決する。

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